マルクス生誕150年内田先生の返信

Q なぜ資本主義社会の日本にはマルクス主義を愛読する人がこんなに多く存在しているのか、
その原因は何だと思われますか。

A 人はマルクスを読んだからといってマルクス主義者になるわけではありません。
マルクスを読んだあと天皇主義者になった者も、敬虔な仏教徒になった者も、計算高いビジネスマンになった者もいます。 それでも、青春の一時期においてマルクスを読んだことは彼らにある種の人間的深みを与えました。
政治的な読み方に限定したら、スターリン主義がもたらした災厄や国際共産主義運動の消滅という歴史的事実から、
「それらの運動の理論的根拠であったのだから、もはやマルクスは読むに値しない」
という推論を行う人がいるかも知れません。

けれども、日本ではそういう批判を受け容れてマルクスを読むことを止めたという人はほとんどおりませんでした。
マルクスの非政治的な読み」が許されてきたこと、
それが世界でも例外的に、日本では今もマルクスが読まれ続け、 マルクス研究書が書かれ続けていることの理由の一つだろうと思います。
僕たちはマルクスを読んで、広々とした歴史的展望の中で、深い人間性理解に基づいて、複雑な事象を解明することのできる知性が存在するということを知ります。

中国の若者たちよ、マルクスを読もう (内田樹の研究室) より