中村哲医師の残したもの 4

中村
一つは敵の敵に対する親近感です。日露戦争や太平洋戦争など、欧米と干戈を交えた(戦争した)のはアジアの中で日本だけだった。
彼らはイギリスの支配に随分苦しめられた時代があって、日本という国に親近感を抱くようになった。
日露戦争もそうです。アフガニスタンの場合は、1800年代後半、南下するロシアと北上する英国、
その狭間の中で生き抜いてきたという国際環境が日本と似ています。
アフガニスタンは険しい山岳という自然条件、日本は極東という遠距離によって、かろうじて独立を維持してきた。
英国とは三回も戦争して撃退しています。
もう一つは、「ヒロシマナガサキ」を必ず連想するそうです。
その悲劇に対する同情、そして戦後廃墟の中から復興した「平和国家・日本」は称賛の的でした。

中村
うん、前ほどは芳しくないですね。ただ、古い世代がまだ生きている。強い好感を持ってくれていた世代です。
しかしもう新しい世代になると、欧米の一員くらいにしか見ない者が増えています。
ただ、アフガニスタンには軍服を着た日本の兵隊は来なかった、そのことは大きかった。
日本だけは違うんだ。至らない点は多々あるにしても、民生支援を中心にやっているんだ。という意識はまだ強いです。

中村
軍隊をくり出して人を殺めなかったことは、非常に大きかったのです。
誤解から親日感情が湧いたにしても、その感情を踏みにじらなかったことが、好印象を与えたのでしょう。

中村
うん。敏感ですよ。自分たちはどちらかというと、作業員の人々と接する中で、
下々と言っては失礼ですけれども、社会の大部分を占める底辺の階層がそう見ている。それは感じます。

中村
彼らは憲法9条のことなんか知らないですよ。ただ、そういう国是があるのだとは感じていると思います。

ーそれが今もしかしたら、変化してしまうかもしれないことは知っているんでしょうか。ー

中村
漠然とは感じているでしょう。現地の人々は日本人以上に国際情勢に関心が強い。BBCニュースを聞くのは日常です。
去年日本人がシリアで捕まりましたよね。あんなニュースもすぐ作業現場で話題になります。

ペシャワール会 中村哲医師に聞く