J・D・サリンジャーは一九一九年、マンハッタン生まれ。
父は裕福なユダヤ人だった。一九四二年、第二次世界大戦に従軍し、ノルマンディー上陸作戦などを経験。捕虜になったゲシュタポの尋問を請け負うなど、ホロコーストを目の当たりにする。
ドイツ降伏後、PTSDの治療を受けた。
主人公ホールデンが、ライ麦畑に何千人も子供がいて、ときどき崖から落ちそうになってる。僕はその子供をキャッチする人になりたいだけだ。
心ここにあらずの饒舌(じょうぜつ)さで語り続けるのは、「危険だからここにはいられない」という、著者が戦場で被ったトラウマと、
「死んでいった人を助けたい」という、胸が張り裂けるような思いだ。
ライ麦畑とは、戦場、子供とは、兵士のことだったのだ。
本書は、本来語り得ぬはずの戦争体験を、青春小説に擬態して語った、一人の元兵士の渾身(こんしん)の咆哮(ほうこう)なのだ。