法に涙はない

谷口太規(CALL4)弁護士の呟き

 

先日、在留資格のないままに二十数年を日本で暮らしたアフリカ某国の男性と一緒に入管に出頭した。
帰国するためだ。
彼は滞在中、在留資格がないことを除いては、法を遵守し、キツくて多くの人が短期間で辞める肉体労働の仕事を二十年続け、
職場では彼がいなければ回らないまでの存在になっていた(1/6


新幹線の重要なパーツを作る仕事もしていた。
日本の誇る交通インフラを彼のような人も支えていた。
これだけ日本への定着性があれば、在留特別許可を得られる可能性もある、そうアドバイスをしたが、結局彼は帰国を決めた。
在特の判断に長期間を要しその間生きるすべがないというのもあったが(2/6


最終的には、日本への諦めのようなものが大きかったように思う。
彼が最初、労災の相談で来た。職場で積荷が崩れる事故があり、首を痛め、また肋骨も数本折っていた。
私はオーバーステイでも労災は認められるが、逸失利益の補償は日本人の場合より遥かに少ないと伝えた。H9.1.28の最高裁判断ゆえだ(3/6


最高裁は3年経過後は通貨価値の低い出身国基準で補償すれば良いと述べたのだ。
彼はそれを聞いて「日本人の身体と自分たちので価値が違うということか」と首を振ってから、少し笑うような虚空を見るような表情をした。
離れることを決めた時、彼は「日本はもういいや」とそれ以上は何も言わなかった(4/6

平成9年1月28日損害賠償請求上告、同附帯上告 抄一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の事故による逸失利益を算定するに当たっては、予測される我が国での就労可能期間内は我が国での収入等を基礎とし、その後は想定される出国先での収入等を基礎とするのが合理的であり、我が国における就労可能期間は、来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労資格の有無、就労の態様等の事実的に及び規範的な諸要素を考慮して、これを認定するのが相当である。