アメリカの今:内海 信彦

合州国で燃え上がる人種差別主義への抵抗運動を、
ああいう暴力はいけない」などと眉を顰めて評論している方へ
涙が出て止まりませんでした。
情勢に大きな影響を与える抗議行動が警察官によって始まりました。
各地のプロテスターの抗議行動に、警察官が加わっています。
デモの先頭に、警察署長が立っています。
コーケジアン(白人をホワイトとは言いません)の警察官と、
アフリカンアメリカンの若いプロテスターが抱き合い、
コーケジアンの警官が涙を流して励ましています。
合州国憲法修正第1条を踏み躙るトランプの暴虐に、
合州国各都市の警察本部長、警察署長、シェリフ、警察官たちが
勇気ある抗議に立ち上がっています。

警察としての謙虚な自己批判には、自立した個人の存在を心から感じるのです。
個人主義に貫かれた思想の自由が、警察高官から武装警官に徹底しているのは、例外ではありません。
権力側とはいえ、権力の不当な命令に不服従して、
個としての存在と、市民としての共同体意識が、
合州国社会を二分化していることに、あらためて心を揺さぶられます。
警察官のみならず、州知事、郡政府長、市長、公務員が次々に実名を明らかにして、
トランプのレイシズムを厳しく批判してプロテスターの側に立つと明言しています。
極めて厳しい局面に追いやられたトランプは、
プロテスターの側に立つ知事や市長を監獄に入れると叫んでいます。

1807年以来、発動されたことのない「反乱法」(内乱法)を持ち出して、
合州国連邦軍を動員して、「暴動」鎮圧に投入すると言います。
即座に1989年6月3日未明の天安門事件を想起しました。
トランプに、2020年の天安門事件を、起こさせてはなりません。
日本のメディアは、常に暴動だの、掠奪だの、破壊だのの映像を放映します。
フランスのイエローベスト運動の時も、シャンゼリゼの破壊されたレストランばかり流していました。
合州国のメディアとは、全く異なります。
放送の送り手の、国家権力からの独立と自由な立場性は、
権力を批判し、権力が隠そうとする不都合な真実を伝えることで保証されます。

日本のメディアに共通する抗議運動を貶める狡猾で卑怯な、
特権を持つ者の堕落した態度は、
トランプの最大の同盟者安倍晋三の思う壺です。
もっと他にやり方があるはずだ、と思われる方は、でも、だけど、ていうか
などと荒探しばかりしているようです。
ただし情勢の大きな展開から学ぼうともしないのが、生活保守の半安倍特有の存在形態です。
日常の現場で闘うことを避けながら、口先で反権力を騙りながら、
歴史の掃きだめに安住して、 現状肯定的思考停止になって批評家然としているのが快楽なのでしょう。